『和田さん、これってタカハラのトレーニング方法に似てますね。うん、似てますよ』と言われたとき、私は『・・・?』でした。
『いや、実はね、この前テレビでやってたんですよ。サッカーの高原選手が、あの瞬発力を獲得したトレーニング方法を』
『はあ・・・』
『一本のゴムチューブを高原選手とコーチが腰に巻いて、コーチが一方に走って行くんです。高原は、ゴムチューブのテンションが一杯になるまで踏ん張って耐えて耐えて、もう限界というところまできたら、一気にスパートするんです。
ゴムの張力に引っ張られて走るから、普段では体験しないスピードで脚をストロークさせることになる。それで、身体が今の限界を超えたスピードを体得するんだそうですよ』
『うーん、なるほど』
“我が意を得たり”とはこのこと、思わず話しも弾みました。
この話しを紹介してくれたのは、現在、一緒に企業研修プロジェクトを進めてくださっている会社役員の柴氏でした。
なぜ、こんな話しになったのかというと、この日は、「SSDS−BAC」の速話聴取法を体験していただこうと、いつものプレゼンテーションをしたのです。
『柴さん、宜しいですか。それではまず、2倍速を聴いてください』と、再生ボタンをON。
『ハッハッハ、久米宏さんみたいだね』
『それでは、次に3倍速です』
『所々、分からないところがあるね』
『結構です。それでは次に、4倍速を再生します。聴き取れなくても結構ですから、とにかく、音に集中して聴き取ろうとしていてください』
『全然分からない。朝鮮語みたいだね』
『はい。それでは、もう一度3倍速を再生しますから聴いてみてください』
『あー! さっき聴いたときよりも良く分かる』
『そうでしょ、これが“ビットギャップ効果”です。私たちの頭脳というのは、高速情報が流入してくると、それを処理するために頭の回転が速くなるんです。限界を超えたスピードを入れてやらないと、この効果は顕著に出ないんです』
と、ここまで説明したときに、柴さんから発せられたのが、冒頭の言葉だったのです。
「スポーツ選手がゴムチューブでトレーニング」と聞くと、普通なら、「巨人の星」の“大リーグボール養成ギブス”のような、筋力アップトレーニングをイメージしますよね。しかし、高原選手はそれを全く逆に使って、瞬発力を養成しているのです。
競歩や短距離走者が、ちょっとした下り坂や追い風で練習して瞬発力を獲得するのも、同じ効果を狙ったトレーニング方法です。
柴さんとの打ち合わせが終わり帰路についたとき、頭の中が「夜店に並んでいる風車」のように、“スルスル、スルスル”と小気味よく回っているのがよく分かりました。回ると言っても、雑念があちこちから出てきてしまう状態ではなくて、一つのことにスーッと意識を向けて集中している状態です。
私は今でも“事”の直前に速話聴取を実践します。これを実践すると“事”の最中に頭が良く回るのは当然ですが、“事”が終わった後も頭の回転に余韻があり、脱力感も合わさって何とも気持ちが良いのです。
早いもので、世界初の4倍速再生機がSSI社から発売されて、ちょうど10年が経ちました。当時は、速聴きすれば、頭の回転が速くなることを経験則的に得ていましたが、詳しいメカニズムはよく分かっていませんでした。ですから、「とにかく速話音声を繰り返し聴いてください。そうすると頭の回転が速くなりますから」としか言えませんでした。
ところが、この10年で速話聴取に関する研究データも揃い、理論面も構築されてきました。「ただひたすら聴く」から「速話聴取法に則って聴く」に進化してきました。そのため、効果が実感できずに途中で諦めてしまうユーザーが本当に少なくなりました。
マシーンも進化し、録音媒体には切手大ほどのスマートメディア(東芝の登録商標です)を採用し、マシーンは内ポケットにスッポリ収まるようになりました。
そのお陰で、いつでもどこででも、“事”の直前に頭脳を瞬間チャージすることができるようになったのです。 |