健康な身体を保つために、呼吸が重要な働きをしていることは、今さら述べるまでもないでしょう。食事で摂取した栄養素を燃焼するためには酸素が必要で、その燃焼の結果、二酸化炭素が発生します。このガス交換の役割を果たしているのが呼吸です。どんなに沢山の栄養を摂取しても、ガス交換がなされなければ、それこそ“栄養の持ち腐れ”です。
外界から取り込んだ酸素と血中の二酸化炭素は、肺で交換されます。これを外呼吸といいます。これに対して、血液と臓器細胞の間で行われるガス交換を内呼吸といいます。本レッスンのテーマ「呼吸を鍛える」は、主として、外呼吸にスポットをあてています。
“息”という字を「自らの心」と書くとおり、本人の心の調子が呼吸の様子にそのまま表れてきます。逆に、呼吸は「身体、感情、頭脳」の調子に大きな影響を及ぼすコンダクター(指揮者)のような働きをすると共に、「身体、感情、頭脳」同士のリズムの架け橋でもあるのです。また、脳幹の一部である延髄にある呼吸中枢によって、呼吸は無意識のうちにコントロールされていますが、意識でも容易にコントロールすることが可能です。ゆえに、自己鍛錬の修行者にとって、呼吸は重要かつ効果的なツール(道具)なのです。
それではまず、「呼吸容量の図」を見ながら、肺呼吸(外呼吸)の量的側面を概観してみましょう。体格や能力などによって個人差がありますが、大体の量です。
普段の呼吸(これを緩息といいます)で出し入れしている空気の量は、一回に約500ミリリットル(ml)です。1リットルのペットボトルのちょうど半分に当たります。肺活量は約3900mlですから、普段は能力の約8分の1で呼吸をしていることになります。
緩息で吐いた状態から更に吐き出すことができる量は、約1000mlです。これを予備呼気量といいます。そして、努力して吐ききってもなお残る量は、約1100mlです。これを残気量といいます。一方、緩息で吸った状態から更に吸い込むことができる量は、約2400mlです。これを予備吸気量といいます。
左右の肺には、袋状の肺胞が何億個も詰まっていて、これに毛細血管が網目状に絡んでいます。この肺胞と毛細血管との間でガス交換が行われる訳ですが、緩息だけで暮らしていると、予備呼気量分の肺胞には空気が滞留して腐敗してしまいます。あるいは、肺胞がつぶれたままで空気が入ってきません。一方、予備吸気量分の肺胞も機能退化してしまいます。このような状態が、身体に悪い影響を及ぼしてしまうのです。
ですから、一日に一回でも、予備呼吸細胞を使うトレーニングを実践すると、肺中空気の換気に繋がり、体調の改善が促進されます。音読やお経を唱えたり、運動したりすると「身体、感情、頭脳」がリフレッシュするのも、肺中空気のリフレッシュが大きな役割を果たしているのです。要は、予備呼気を吐ききること、そして、予備吸気を吸いきることです。これだけで、素晴らしい効果が期待できるのです。
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呼吸容量の図 |
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この呼吸法は、効果をすぐに実感できますが、継続されることで、一層「身体、感情、頭脳」の改善が期待できます。継続のための条件付けとして、場所あるいは時間帯を決めてトレーニングすると良いでしょう。
私がこの呼吸法を実践して頭脳の明晰を実感したのは、20代後半の頃、脳波の研究をしていた時期です。その日は、「酸素を沢山吸い込むと、脳波はどのように変化するか」をテーマに、過呼吸と脳波測定を繰り返しました。頭脳明晰を実感したときは、実験終了から15分ほど経っていたでしょうか。測定結果を簡単にまとめて帰路についたときです。新宿の夜景の中を歩きながら、明晰な頭脳を楽しみました。普段の自分と今の自分が同じことに取り組んだとしたら、大きな差が出るだろうなー、結果も全然違うだろうなー、と感心したものです。
ぜひ実践してみてください。効果てきめんです。試験や商談など、大切な“事”の前にこれをやらないのは、もったいなさ過ぎます。気分がすぐれないというときにも、酸素を沢山吸い込むと、鋭気がグングンとわいてきます。呼吸法を実践すると、酸素と二酸化炭素の換気が促進されるので、酸化傾向にある血液が調整されてリフレッシュするのです。
やり過ぎるとアルカリ性に傾き過ぎ、いわゆるアルカローシスの症状(気分が悪くなるなど)を感じる場合があるかもしれません。そのようなときは、呼吸法を一旦中止してください。しかし、過呼吸で大事に至ることはまずあり得ませんから、安心して実践してください。 |