1.脳波とは、神経ネットワークの電気活動を記録したもの |
脳には一千億個を超えるニューロン(神経細胞)があり、巨大なネットワークを形成し、感覚器官から送られてきた情報を伝達処理し、また、身体をコントロールするための情報を送り出しています。
このとき、ニューロンでは電気信号が流れ、ニューロン同士を繋ぐシナプス(中継機能)では、送り手側のニューロンから神経伝達物質が放出され、それを受け手側のニューロンが受容しています。この神経伝達物質の量によって伝達情報が増幅または抑制され、神経伝達物質の種類によって情報が修飾されます。
脳細胞の活動と相関して、その周りには電波が発生しています。しかし、一個の脳細胞にかかわる電波はとても小さく、それを頭皮面から検出することは容易ではありません。ところが、一定数以上の脳細胞が同調して活動すると、微かな電波を検出することができてきます。その同調周波数から、脳の活動状況を大まかにうかがい知ることができます。 |
2.脳波発見の歴史 |
1780年。イタリアの解剖学者ルイジ・ガルバニーが、蛙の脚の筋収縮は生物電気の放電によるものであると発表したことで、生物電気現象の研究が盛んになりました。
1875年。イギリスの生理学者リチャード・ケイトンが、兎や猫、猿など動物の脳の電気活動を報告しました。
1924年。ドイツの精神科医ハンス・ベルガーが人の脳波を計測し、1929年に「人間の脳電図について」という論文を発表しました。しかし、当初は、“脳波以外のノイズではないか”※と多くの識者によって否定されました。
1933年。イギリスの電気生理学者エドガー・エイドリアンによって人の脳波が改めて計測され、その後、多くの脳波研究が行われるようになりました。エイドリアンはベルガーに敬意を表して、脳波を“ベルガーリズム”と呼びました。
※高くても百数十μV(マイクロボルト:μは百万分の1)という微弱な脳波を計測する際、それよりも遙かに高い筋肉電位などのアーチファクト(雑電波)が混入してしまい、正確な脳波を検出することが大変難しいことだからです。
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3.日本の臨床用脳波計の歴史 |
1935年。この頃から東北大学や北海道大学、東京大学などで脳波計が試作され、研究が始まりました。
1943年。文部省が脳波研究班を組織し、国家レベルでの脳波研究がスタートしました。
1951年。東京大学工学部の指導の下、三星電機が国産一号の臨床用脳波計「木製号」(右の写真。医科器械資料館にて。2008.12.22 撮影)を開発し、日本大学文学部心理学教室に納入されました。
この頃、東芝や日立製作所、シャープ、島津製作所なども脳波計を手掛けましたが、結局、三栄測器(三星電機の後身。現在は、NECのグループ会社)と日本光電に絞られました。また、世界でも50%を超えるシェアを獲得していました。
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4.脳波の種類 |
センサー(電極)を頭に装着することにより、リアルタイムで脳波を検出することができます。これを原波形と呼びます。被験者が充分にリラックスしてくると、律動的な正弦波に近い波形が観察されます。ベルガーは、この特徴的な波形をアルファ波と名付け、それ以外の波形をベータ波と名付けて区別しました。
実際には、脳波の原波形には様々な周波数成分が含まれており、合成波形であると言えます。この合成波形を各周波数成分に分解し、それぞれの電圧、優勢率、分布率などと被験者の状態を比較観察することによって、以下のような特徴が分かってきています。
名 称
(ギリシャ文字) |
周波数 |
特 徴 |
備 考 |
ガンマ波
(γ 波) |
50Hz前後 |
極度の緊張/イライラ/パニック |
全力を発揮しているように見えるが、非効率な場合が多い。 |
ベータ波
(β 波) |
20Hz前後 |
日常/作業/軽い緊張/意識の分散 |
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アルファ波
(α 波) |
10Hz前後 |
意識集中/リラックス/思考の沈静/瞑想 |
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シータ波
(θ 波) |
5Hz前後 |
入眠/ウトウト/深い瞑想 |
意識鍛錬の達人や、高度な精神活動を必要としないタイプのテレビゲームに興じている人などからも観察される。 |
デルタ波
(δ 波) |
1Hz前後 |
熟睡/昏睡/ノンレム睡眠 |
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さらに、数百から千ヘルツ以上の周波数成分に着目している研究者もいます。
また、アルファ波をさらに分けて、以下のように特徴づけることもできます。 |
ファスト
アルファ波 |
12.5Hz前後 |
テキパキした作業/ピークパフォーマンス/緊張集中 |
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ミッド
アルファ波 |
10.0Hz前後 |
一点集中/弛緩集中/閃き/特異能力の発揮 |
思考実験したり課題を克服するアイデアが閃くとき。 |
スロー
アルファ波 |
7.5Hz前後 |
受容性の拡大/リモートビューイング(遠隔透視)/身体的共振との共鳴/恍惚、心身の深いリラクセーション |
第一次シューマン共振(7.83Hz)や光が地球を一周するテンポと同じ周波数帯域。 |
この他にも、ベータ波とシータ波が同時に高い分布率を示したり、fmシータ波などの特徴的な脳波が確認されています。また、臨床的に脳の異常を見極める視点からも、様々な観察指標が発表されています。
脳波の優勢周波数と意識状態は、概ね以下のような関係にあります。
1. |
アルファ波よりも高周波(これを速波といい、ベータ波、ガンマ波がこれにあたります)が優勢な場合は、顕在意識が優勢。 |
2. |
アルファ波よりも低周波(これを徐波といい、シータ波、デルタ波がこれにあたります)が優勢な場合は、潜在意識が優勢。 |
3. |
潜在意識は常に働いている。顕在意識と潜在意識がバランス良く働くとき、脳波はアルファ波が優勢である。ただし、逆も真とは限らない。 |
4. |
高僧やヨーガの達人が瞑想するとき、シータ波が優勢になることがある。シータ波は通常、ウトウトや入眠時に優勢となる脳波である。しかし、高僧や達人の意識はクリアに働いている。よって、この状態を特に「覚醒シータ波」と呼ぶ。 |
※上表には、弊社独自の研究による仮説も含まれていることをご了承下さい。
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5.バイオフィードバック法 |
ホメオスタシス(自己恒常性:自律神経系、ホルモン系、免疫系の3つのシステム)を意思でコントロールすることは普通できませんが、その変化を本人が知覚できる情報(視覚情報や聴覚情報)に変換して示し、その知覚情報を手掛かりに学習/訓練することによって、徐々にホメオスタシスをコントロールすることができるようになります。心身症の改善や自己統制能力の開発などの分野で用いられています。
1960年代に、日系アメリカ人のジョー・カミヤ氏(カリフォルニア大学教授/調査心理学)らが禅僧の瞑想中の脳波を研究する中で、脳波もバイオフィードバック法が有効であることを発見しました。
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6.バイオフィードバック用脳波計 |
バイオフィードバック法を目的に開発された脳波計です。当初は、アーチファクトの混入をそのまま脳波として表示してしまうものや、後頭部にセンサーを装着するタイプなど、バイオフィードバック用脳波計の黎明期が続きました。後頭部は脳波のボルテージが比較的強く、目を閉じるとアルファ波がよく出て、筋電によるアーチファクトの混入も少ないのですが、自己統制訓練には不向きな部位です。 |
前頭部は、思考/精神活動の中枢部位ですが、検出される脳波のボルテージは低く、かつ眼球運動筋や表情筋からのアーチファクトが混入しやすい部位です。これらの課題をクリアーして1981年に発売されたのが、フューテックエレクトロニクス社(開発は志賀一雅氏)の「アルファータ FM-212」です。これを機に、脳波バイオフィードバック法の本格的な展開がスタートしました。 |
志賀一雅氏(右)と和田知浩
2009.2.10 撮影 |
アルファータ FM-212 |
「アルファータ FM-212」が発売された当時のカタログには、自律訓練法の分野で実績のある佐々木雄二氏(筑波大学心理学系助教授(当時))が、次のようなコメントを寄せています。
「これまで、バイオフィードバック機器は、皮膚温、血圧、皮膚電気抵抗値などに焦点を当てたものが色々開発されてきた。しかし、アルファフィードバック装置に関する限り、安心して使えるものがあったとは言い難い。『バイオフィードバックFM-212』は、その点誤ったフィードバックがおこらないような配慮がなされていること、初心者は初心者のレベル、熟練者は熟練者のレベルで段階をおって練習できるように工夫されていること、フィードバックする手段も自分の好みにあった方法で選択できることなど、又ハンディーである点などで、これから臨床面にはもちろん、一般にも大いに利用されうるであろう。」 |
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7.弊社和田知浩の脳波に関する主なトピックス |
1987年。「アルファータ FM-212」(正確には、同機種をフューテックエレクトロニクス社がSSI社にOEM供給していた「サイコフィードバック装置 KLAUS1000PF」)によるバイオフィードバック訓練をスタートしました。
前出のジョー・カミヤ氏が東京女子医大においてバイオフィードバックに関する論文を発表されるのを聴講し、感銘を受けました。
「KLAUS2000PF」の開発製造メーカーである日本通信機において、脳波計のメンテナンス教育を受け、ユーザーサポートを開始しました。この年に発売された「FM-515」(「KLAUS3000PF」)も合わせて、数百人/月のペースでユーザーが増えていました。 |
1992年。トレーニング者の脳波を解析しながら適切な呼吸誘導音をフィードバックする能力開発マシーン「バビス-1」を開発しました。しかし、5台を販売したのみで、継続生産を断念しました。 |
1994年。臨床用脳波計「サイネフィット1000A」(NEC三栄社製)とEEGマッピングソフト「ATAMAP」(キッセイコムテック社製)を活用して、能力開発の視座に立った脳波研究をスタートしました。 |
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ATAMAP |
サイネフィット1000A |
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その他、メディア出演の一部を以降のコーナーで紹介しています。 |
8.あなたは「心を鍛えますか?」それとも「心を調べますか?」 |
弊社では、メンタルトレーニングの脳コンディション作りや自己統制能力の開発をサポートする際に、バイオフィードバック法も活用しています。また、現在までに数千件の脳波を測定し、達人がその能力を発揮しているときや、催眠誘導による変性意識状態の人、リモートビューイング(遠隔透視)中の人、瞑想/座禅中の人、自律訓練中の人、アロマ(芳香)セラピーを受けている人など、様々な脳波を測定しています。
バイオフィードバック・マシーンとして、スポーツや勉強、ビジネスなどで更なる能力を発揮するために活用したい人、あるいは簡易脳波計として研究に活用したい人などにお薦めします。 |
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脳波に関するセミナーのダイジェストをこちらでご覧頂けます。
脳波測定の体験やセミナーのご利用は、「トータルセッション」をご覧ください。
達人達の脳波を収集するファインブレイン研究会(弊社主宰)のプロジェクト、
「脳波研究・・・・・本物は脳波に表れる!」を紹介しています。 |
セルシネ・エイム研究所 代表 和田知浩 |